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最終修正日 2025/1/1
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人レチノイドXレセプターアンタゴニスト設計
論理的構造ベース創薬:RXRアンタゴニスト設計、リード最適化 レチノイドXレセプターアンタゴニストはその生理学的観点から糖尿病などに対する有効な治療薬としての可能性がある。その中で、HX531は代表的なRXRアンタゴニスト化合物である。*
*Chem. Pharm. Bull., 1999, 47, 1778-1786.
論理的構造ベース薬物設計 − リード最適化手順 準備:レセプターおよび化合物はHomology Modeling Professional for HyperChemリビジョンB1を用いて準備した。化合物の安定コンフォメーションは化合物単独でのMM+力場条件下のHyperChem高温MDアニーリングにより準備し、これを初期構造として、Gaussian Interface for HyperChemを介してGaussianのB3LYP/6-31G*//AM1モデルケミストリーを実施して構造最適化し、その構造と電荷をHyperChemにフィードバックさせて使用した。レセプターとのドッキングシミュレーションはプロフェッショナル版Docking Study with HyperChemリビジョンA3を用いてAmber94力場、All Atom条件下に実施した。 なお、下図に示すように、HX531はベンゾジアゼピン環三級窒素原子に由来するエナンチオマー間の早い平衡にあると考えられる。 これらエナンチオマーを用いたリガンドフレキシブルドッキングシミュレーション(レセプターは静的に取り扱う)の結果、上図右のエナンチオマーを初期構造としたシミュレーションからは安定な複合体が得られず、上図左のエナンチオマーがRXRアンタゴニスト活性に有効(活性本体)であることが示唆された。 得られた複合体構造(下図)は、アンタゴニスト型RXRリガンド結合領域結晶構造解析の最初の論文で報告されたHX531とのドッキングシミュレーションの結果と良好に一致していた。 ところが、これらエナンチオマーを用いてタンパク・リガンドフレキシブルドッキングシミュレーション(レセプター、化合物ともに動的に取り扱う)を実施したところ、一方のエナンチオマー(上図左)はこれま通りの推測された安定複合体構造を採用したが、タンパクを静的に取り扱った場合にはヒットすらしなかったもう一方のエナンチオマーから非常にリーズナブルでかつ非常に安定な全く異なる別の複合体構造の可能性が示唆された。 以下に得られた両複合体構造(青と赤)を示す。 また、以下の図ではフレキシブルに取り扱ったレセプターの残基をチューブで表示しており、各残基に大きな立体反発のような痕跡もなく、非常に良好なインデュースドフィット効果(誘導適合効果)が起こっているのがわかる。 また、下図ではリガンド結合部位のファンデルワールス表面を示しており、どちらの複合体構造も良好にリガンド結合部位を満たしていることがわかる。 HX531に関しては多くの研究機関でリード最適化が行われているが、活性の消失こそあれ、活性が向上した報告例はない。このことはHX531の最適化が文献情報に依存した主観あるいはシミュレーションによって間違った方向性で進められている可能性が高いことを示唆している。 この報告を閲覧された研究機関の方の参考になれば幸いです。
2005年11月6日
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